『化学』のところで「細胞」まできましたので、この際『生物』もしておきましょうか。この本は大学受験をする高校生のために書かれた参考書です。なので、実にコンパクトに生物のことが纏められています。まさに“基礎からよくわかる”!! なのですね。
以前、
・岡田節人さんの『生命科学の現場から』(新潮新書)
http://saturniens.air-nifty.com/sennen/2006/06/post_64be.html や
・村上和雄さんの『生命の暗号』
http://saturniens.air-nifty.com/sennen/2007/02/post_ef28.html・ジェームス・D・ワトソンの『二重らせん』
http://saturniens.air-nifty.com/sennen/2007/02/post_c6a6.html など、このブログでも「生物」に関するものを紹介してきました。この時は狂牛病を発症させる「プリオン」という「たんぱく質」に興味を持って書いています。そこで『二重らせん』にまで到っているのですが、今回は『複雑系』へ行く前の前哨戦として「生命の発生」というところから追っていきたいと思います。
で、前回・前々回の『物理』や『化学』で「結晶」とは何か? といった基礎中の基礎を確認したように、今回も「細胞」とは何かという、生命の根源を成すところから入っていきましょうか。
そもそも、生きている「生命体」と、生きていない「物体」とを区別するのは何なのでしょう? それは自律的に変化していくものであるか、どうかということです。生命あるものは「生きて」「死ぬ」んですね。日々刻々と細胞は変化しています。細胞は毎日新しいものに入れ替わっているのですね。
椅子や机などの「物体」を人間が押してやれば、その方向に動きます。ボールも投げれば転がっていきます。が、これは自ら動いたのではありません。では「地球」は? 自律的に回転して動いていますよね。しかも誕生の時から太陽エネルギーを受け、化学変化によって地表に様々な物質を生みだしてきました。けれど地球を「生命体」とは言いません。
「生命体」であるということの条件が本書に書いてあります。それは、外からの刺激に反応する「刺激反応性」と、熱交換のように体外から物質やエネルギーを取り入れそれを変換させる「物質交代」、その他にもう一つ重要な働きがあります。それが細胞分裂や子孫を増やしていく「自己増殖性」なのですね。自らと同型の複製を作りだしていく。子孫を増やしていく。これが「生命体」なのです。
『化学』のところで、「結晶」によって、物質が「固体化」するシステムは分かりました。そこまででは、まだ物質がどのようにして「生命体」と呼べるものに変化したのかは分かりません。しかし前回の『化学 その現代的理解』に出てきたように、クロロフィルのような自ら自然界の「光」を取り入れ、その太陽エネルギーを用いて、二酸化炭素、水と合わせ栄養となるグルタミン酸などの「有機化合物」を合成していく「錯体」の存在がありました。クロロフィルは「マグネシウム」の「錯体」でしたね。単なる金属であったものが、「錯体」となると「物質交代」をさせていくことに注目しました。
もう一つ、人間の血液を作る赤血球のヘモグロビンも「鉄」の「錯体」でしたね。ヘモグロビンは鉄を含む色素「ヘム」とタンパク質の「グロビン」が結合してできたものです。ヘモグロビンは酸素と結合しやすく、このヘモグロビンのおかげで私たち人間の体には常に酸素が供給されているのですね。酸素が欠乏するとすぐ人間の脳は死滅し始めます。先程、「細胞は毎日新しいものに入れ替わっています」と書きましたが、脳細胞のみは違います。脳細胞は一旦死滅したらそのまま再生はしません。脳の損傷で記憶障害や痴呆が起こるのはそのためですね。肉体は生きているのに植物状態になるのもそのためです。脳が死なないで生きているのは、脳内に酸素が流れているからで、その重要な役割をヘモグロビンがしてくれているのです。
このような金属元素とタンパク質の合成でできた「錯体」、クロロフィルやヘモグロビンの働きこそ、生命体に必要不可欠な自律性の始まりになるものとも言えるでしょう。
地球上の様々な物質の化学反応で、各種「有機化合物」が誕生しました。人間の素となる「たんぱく質」も多数合成されます。それが自律的に動いていくのですね。
人間の体は60兆ほどの細胞でできているそうです。細胞はうすい膜で覆われ、原形質には、一つ一つにDNAなどの遺伝子が含まれ、細胞はDNAやRNAを含む「核」と、ミトコンドリアなどを含んだ「細胞質」に分けられています。原形質のほとんど80パーセントが「水」でできており、残りの半分以上が「たんぱく質」だそうです。また「たんぱく質」の多くは「酵素」として細胞内で化学変化(物質交代)を助けます。胃液酵素が消化を助けると言えば分かりやすいですよね。
これは村上和雄さんの『生命の暗号』でも書きましたが、DNAをつなぐ働きをするのが酵素でもあり、もう一つ狂牛病『死の病原体プリオン』のところでも、「酵素」というのはキーポイントでした。
私たちがウシの乳を飲んでも牛にはならず、牛肉や豚肉を食べてもそのままの人間であるのは、私たちが食べたものは「酵素」が消化し、新しい栄養素として作り直してくれているからなのですね。食べたウシの遺伝子がそのまま血や肉、骨になるのではなく、「酵素」がそれらのたんぱく質を分解し、その分解したアミノ酸から再び「ヒトのたんぱく質」へと合成しているのです。「酵素」の特性は、特定の物質としか結合しないということで、鍵と鍵穴のように結合する相手が決まっているそうです。厳密に相手を選別する能力が備わっているということ、そういったことも何となく頭の片隅に入れておきましょうか。この酵素が活性する最適温度が37度付近と聞くと、人間の体内で丁度良い具合に酵素が働いているということが分かります。
さて、人間はどのようにしてできたかと言えば、細胞が60兆になるまで「分裂」をくり返し増殖していったからですよね。では「細胞分裂」というのはどのように起きるのか? そこからはじめていきましょう。
1.まず、分裂の前に分裂の準備が行われます。細胞というのはどの細胞の中にも同じDNAを持っていますから、準備期間中にこのDNAを含む染色体を倍加させるのですね。一つの卵の中に黄身を二つ作ると考えてください。
2.元の染色体と同じ複製された染色体ができあがると、一つの細胞の中で、それが上下両極引き裂かれるように二つに分かれます。卵の中で黄身が二つ上下に浮いている感じですね。
3.すると、それまでの細胞膜に“くびれ”が入り、完全に二つの細胞に分かれます。
問題はこの“くびれ”ですよね。一体何がどうなれば、一つの細胞が二つに引き裂かれるのでしょう。これも以前『進化論の見方』河田雅圭
http://saturniens.air-nifty.com/sennen/2007/02/post_7cf4.htm で書きましたが、 人間が受胎して卵子が分裂してゆくとき、細胞に切れ込みが入り、それが2つになり4つになりと、多細胞に分裂していきます。『遺伝子工学を考える』
http://saturniens.air-nifty.com/sennen/2006/08/post_b3a9.html では、遺伝子を切ったり貼ったりする『制限酵素』というものがあることを書きましたが、興味深いのは河田氏がその例として「ミミズから昆虫への進化の過程で生じたと考えられる分節の変化」ということを書いているのですね。
それは細胞分裂とは違い、ミミズならミミズのように一本の管のような長い同体を持った単純な構造であった生物が、「頭部」「胸部」「腹部」と区切られ、「触覚」「足」のように分節した部分が付属物として伸びてくるという進化の過程のことで、分節化してゆく過程で分節に不用な部分が消滅し、手足のように有用なものが伸びてくるというものです。
人間の指は5本生えてくるのではなく、この“くびれ”が入ることで、五本の指に分節化されていく。こうした細胞死(アポトーシス)はタンパク質分解酵素が司っているのですね。ですから細胞分裂のときの切れ込み、“くびれ”の仕組みは、生命体の様々な形が作られていく一番最初の始まりであると考えていいでしょう。
さて、細胞が分裂して増殖してゆく仕組みは分かりました。女性の化粧などに使う海に住む海綿(カイメン)は、すりつぶしバラバラの細胞にしても、再び海水につけておけば「偽足(仮足)」を出し、集まり、また完全な海綿ができあがるのだそうです。植物で考えるともっと分かりやすいでしょう。葉や枝を切り、挿し木にすればまた育ちますよね。細胞は強い再生力を持っていると同時に、どの細胞も一つ一つ遺伝子を持っていますから、自分と同じ複製を作ることができるのですね。
細胞は増殖することは分かりました。植物は枝を折ってもまたすぐそこから新しい芽がでてきます。でもそれはどのような仕組みになっているのでしょうか?
それは「成長ホルモン」の働きなんですね。植物には「オーキシン」という物質があり(この発見者は『進化論』のダーウィンです!)、これが発芽や生長を促すのです。昆虫の変態もホルモンの働きですし、人間も同じですね。ホルモンが様々に体の器官に働きかけ機能するのです。アドレナリンなど脳内に働きかける物質もホルモンで、このようにホルモンには成長を助ける働きなどの他に、動物で言えば性殖のための重要な役割もします。
人間の成長ホルモンはタンパク質の合成、骨や筋肉の形成、人間の各体の器官を作り上げていく働きをします。例えば「目」を作るとか「鼻」を作るとかですね。そこにはカタチを作る「形成体」と呼ばれるものがあって、自律的に分化させていきます。「目」を作る場合、脳の左右の神経管表皮に「眼胞」という膨らみを作り、それが自律的分化によって窪みを作っていきます。これが眼球の丸いカタチ「眼杯」で、それができあがると更に未分化の表皮に働きかけ「レンズ」が入る窪みを陥入させます。
このように、「眼胞」ができると「眼杯」、「眼杯」ができると「レンズ」といったように、あるモノができると次ぎのモノができるという「誘導システム」があって、「レンズ」ができあがれば、次は表皮から角膜を誘導して「目」ができあがることになります。植物にしろ動物にしろ、細胞が変化し様々なカタチを形成するには、ホルモンが大変高次に機能しているということですね。
ずいぶんといろいろな事が分かってきました。ホルモンによって分化、カタチの形成、成長という一連の流れ、ここまでは植物も動物も同じです。でも、人間はじめ動物は、植物のように同じ場所に固定化されているのではなく、自由に動き回ることができます。この自分で移動できる“動く物”になっていく仕組みはどうなっていたのでしょうね?
ではここで、その最初の最初、原始的動物の代表として「アメーバ」に登場してもらいましょうか。
アメーバはご存知のように単細胞生命です。とうぜんアメーバもタンパク質でできています。タンパク質は水や塩類溶液に溶けると「コロイド溶液」になります。この「コロイド溶液」には、粒子が分散している「ゾル」状態と、粒子がきれいに繋がって並んだ網目状(ハチの巣の六角形が繋がった状態を思い描いてください)の固体化した「ゲル」状態があり、条件によってそれが「ゲル」になったり「ゾル」になったりします。ゼリーが固まる前のドロドロ状態と、固まった後のプルプル状態を想像すると分かりやすいかもしれません。この「ゾル化」と「ゲル化」が、アメーバの“動き”に関係してきます。
アメーバの外側の(人間で言えば皮膚の部分)外質は固まった「ゲル」になっています。内側はドロドロ状態の「ゾル」で、本書によれば、アメーバが移動するにはまずプルプル状態の先端部分の外質(膜)がドロドロ状態に「ゲル」化し、「偽足(仮足)」と呼ばれる膨らんだカタチに流れ出ます。
(後ろ) ⊂⊃⇒ (前)
↑
1.先端部分が溶けて「ゾル化」、矢印の方向へ流れ出す。
2.後方内部も溶けて「ゾル化」前方に移動。
2.流れ出た「偽足」は「ゲル化」し、外質は固まる。
分かります?
まずテーブルの上にゼラチンを溶かした水溶液を横に細長くこぼしたとしますね。それは表面張力で少し盛り上がっています。水はいつまでたっても固まりませんが、それがゼラチンだと次第に固まってきます。タンパク質は固まりやすい性質をしているからですね。アメーバもそれと同じです。つまり前方に移動したい場合、まずアメーバの先端がドロドロ液体状態になって流れ出ます。前方に流れ出たものを「偽足」と呼び、流れ出た後、その外側(外質)はゼリーのように固まります。また前に進むときはドロドロ液体状態に流れ出て、それが固まる。
つまり、「ゾル化して前方に偽足を出す」→「ゲル化して固まる」→「ゾル化して前方に偽足を出す」→「ゲル化して固まる」、ということをくり返し移動するのですね。ダラダラ~と流れては固まり、またダラダラ~と液体になり流れ、固まる。タンパク質の「ゲル状態」と「ゾル状態」を上手く利用して移動しているのです。このような「アメーバ運動」を人間の血液中の白血球もしているのだそうです。
単なる物質、結晶から、こうして自ら動いて移動する「動物」が誕生。三連続で『物理』『化学』『生物』としてきましたが、これで物質から「個体」ができあがること、物質から「細胞」が誕生したこと、同じ細胞でも植物と違い自ら移動していけるようになった単細胞生命の仕組み、ものすごく簡単に分かりましたよね?
多分どの『生物』の教科書もそうだと思うのですが、「細胞と細胞分裂」から始まります。「物質の構成」は『化学』で別々に習います。ですから、一体どうして単なる物質でしかない原子が結合して、生きた「細胞」にまでなるのか、更にそれがどのようにして自由に動き回ることができるようになるのかなどは、教えてくれません。専門的に分科した方が教えやすいということなのかもしれませんが、それらを全部をつなげて教えてくれると良いんですよね。こうして『物理』も『化学』も『生物』も連結して考えていけば、「物質」から「生物」がつながります。
「細胞」の不思議は、まだまだあります。「目」の形成でもそうですが、「多細胞」ということはたくさんの細胞が結集していろいろなカタチを作るというものです。海綿のところでもしましたが、分化した細胞は同種が集まって組織を作ります。けれど、何故細胞同士は“仲間”で集まろうとするのか、ですよね。人間でも同じ趣味の人間同士がグループやサークルを作ったりしますが、細胞も同じなのですね。同種の細胞を認識するとくっつき合い、「目」は「目」になっていきます。
しかしそうではないことは、「目」が形成されず生まれてくる奇形が存在することからも証明されます。サリドマイドの薬害では上腕から下が欠損し腕が極端に短くなって生まれてきたりします。指の欠損や多指も普通に多く見られる奇形の例でしょう。
それはカタチというものが必ずその「形」になるとは決まっていないからですね。何らかの阻害条件があれば、違ったカタチになってしまうということです。
モノのカタチができあがっていくのは、物理的・科学的・生物学的理由で形成されていくということ。この世界に存在するモノはすべて、なるべくして成っていったと考えます。
そもそも同種の細胞が集まるということはどういうことかを考えましょう。「同じ仲間」であることを何が判断しているのでしょうか? ここで考えたいのは、“彼ら”が意志を持って集まるのではないということです。物質の構造として、炭素(C)と、水素(H)と、ナトリウム(N)しかなければ「アミン」が合成され、そこに酸素(O)があれば「CHONでα-アミノ酸」になるということです。
もう一つ細胞の形成システムの中にあった、余分なモノは消し去る、排除するという細胞死(アポトーシス)の原理も忘れてはならないでしょう。また『免疫・「自己」と「非自己」の科学』多田富雄
http://saturniens.air-nifty.com/sennen/2007/02/post_9cc5.html に書きましたように、「キラーT細胞」は、「ヘルパーT細胞」から分泌される「インターロイキン」の指令を受け、ウイルスに感染した細胞だけを攻撃し殺していきます。これも「異物排除」「仲間同士結集」システムと言えますよね。
いづれにぜよ、そこに同じモノができる、集まるということは、同種になる環境・条件がそこに“在る”ということです。違う条件下では絶対そのようなことは起こらず、完璧にその同じ条件が整っているということが必要不可欠なのですね。
モノには「形の場」があって、必ずそのカタチにできていくのではなく、ほんの少しの初期条件の違いでも同じものは作られず、違ったものになっていくということです。
では、随分横道にそれてしまいましたが、いよいよ物質の不思議、宇宙の不思議、生命の不思議、あらゆる世界の出来事の不思議、そのカタチを形成する『複雑系』へと進みましょうか。